
ミシュランを目指す料理の邪魔をしない、
シンプルな箱を作る。
- Data
- 種別/店舗
場所/大阪府大阪市
物件面積/50㎡
リフォーム面積/50㎡
リフォーム内容/全面改装
リフォーム金額/約900万円
浪花節。それもナニワの地にて、コロナ禍により閉店から再起をかける料理人の舞台を作る仕事、です。常に真剣勝負の仕事の中でも、真剣の研ぎ澄まし方が少し違う。名店が並ぶ北新地の一等地。かなり限られた予算の中での店舗作成は非常にやりがいのある仕事でした。素晴らしく洗練されたコースをいただきながら、「特に希望はありませんので、いい感じにお願いします」という一番難しいオーダーをいただき、まず決めたのはコンセプト。「ミシュランを目指す料理の邪魔をしない、シンプルな箱を作る」方針を固めました。
Before&After


多くの梁や床タイルは既存のまま。しっかり手を入れる壁面、高さを変更したカウンターにはこだわりを持たせました。壁面はほぼ光沢が無く、ムラのある質感を表現するために、当初予定していた、予算の上がる漆喰や珪藻土を止め、モルタル左官のコテ押えに。かなり黒に近いグレーの色は現地調色で見極めました。珪藻土などに比べ存在感が控え目で、光沢も無いので主張もせず、それでいて壁紙に比べるとしっかりとした存在感を表現できたと思います。

メインの客席となるカウンター(テーブルも同材)は、材料によって非常に大きな金額差が出ます。メラミン材、集成材などもありますが、仕入れ先や出汁など素材を大事にする施主の料理のイメージからして、どうしても一枚板を使いたいと思い、10年以上懇意にしている材木屋さんで何度も打ち合わせ、長さ約6m、奥行55㎝、厚み10㎝の杉の無垢材を丸太から選び製材してもらいました。色んな事情により、神戸北部の山からレンタルの2tトラックで自分で運ぶというおまけ付き。驚くほどの格安で調達しました。

分かりやすくデザインと呼べる唯一のタイルの壁面。料理の手間の掛けよう、創作の面白みなどを表現すべく、下絵を描き、タイル職人と打ち合わせ作成しました。店名をモチーフに「五」と施主の好きな深い藍色をヒントとして、かき集めたサンプルタイル、箸、皿などを5つ一組のセットで貼り合わせました。ちなみに見えませんが出汁をイメージして、一層の下地タイルが貼られています。遊び心あふれるタイル壁画に、味覚を表す「甘・辛・苦・旨・塩」の5文字と、「口・耳・香・手・目」の5文字、計10文字を散りばめました。

店名を真鍮で作成し、コロナ禍において右肩上がりに光が差すことを願い、照明を当てました。実は少し客席から見えにくい壁面アートなのですが、板前の目にしっかり入り、初心に向き合っていただくことを願っての場所選びでもあります。

あらゆる仕事がそうであるように、担当者の力を引き出すオーダーと、殺すオーダーがあります。前者のオーダーをしたいと、常に皆さん思ってるものだと思いますが、その際に必要なのはお客さん、業者さん双方向の信頼感であろうと思います。どちらか一方がグリップを握り過ぎると、片方が緩みます。それぞれが心地良く握り合い、ちょうどよい遊びがあるときに、良い仕事ができるように思えます。この現場がそうであるよう、これからもずっと祈り続けます。